COLUMN デザイン・環境

CREATIVE CAFÉ NAGOYA発。
トリノ市「地区の家」に学ぶコミュニティ・ハブの在り方。

2019.03.26

 CREATIVE CAFÉ NAGOYAは、ユネスコ・デザイン都市なごやが主催しているレクチャー+ダイヤローグイベント。毎回、さまざまな国からゲストスピーカーをお招きし、多義に渡るテーマを語り合う国際色豊かな参加型のプログラムです。

 第8回目となるCREATIVE CAFÉ NAGOYAは、ユネスコ・デザイン都市なごや、名古屋都市センターと名古屋大学によるコラボレーション。2月中旬、「イタリア・トリノ『地区の家』に学ぶコミュニティ・ハブのエッセンス」をテーマに、都市再生やまちづくりの核に不可欠な要素は何かをトークとワークショップ形式で語り合いました。

 名古屋市の姉妹都市で、2006年冬季オリンピックの開催地となったこのトリノ市は、自動車産業の衰退に伴う人口減少や高齢化、経済格差、移民の流入など、日本と同様に多くの問題を抱えています。
 そのトリノ市で20年以上前から地区の再生に関わる問題に取り組み、公民学連携でコミュニティ・ハブ(地域拠点)を開設したメンバーの一人、建築家でトリノ工科大学建築学科建築技術専攻の准教授のアンドレア・ボッコさん。社会運動家、批評家としても活躍する、このイベントのメインゲストスピーカーです。アンドレア・ボッコさんが実際の事例を交えてコミュニティ・ハブのエッセンスを解説しました。

 最初にお話いただいたのは、トリノのポルタ・ヌーヴァ駅隣りのサンサルバリオ地区でのプロジェクト事例です。
サンサルバリオ地区は、19世紀より移民も含め、多様性に満ちた商業的にも文化的にも活気ある地区でしたが、90年代に主にアフリカ系移民が急激に増え、また当時起きていたこの地区の治安悪化は、移民のせいだとする風評が広がり、実際には健全なコミュニティであったのに、それに反したレッテルが貼られてしまいました。「市と協力しながら多角的な地区改善が必要」と考えたボッコさんは、まだ大学院生だった1994年よりこの地域再生に関わる取り組みに着手。
 「まずは、市民に必要な情報を提供したり、市役所にとってのアンテナ役を果たす市民団体を中心とした「地区改善事務所」を設けました。そして最初に始めたことは、この地区は危険だというレッテルをなくすこと。そのために、街路などの公共空間で清掃活動や地区主催のフェスティバルを何年もかけて行っていきました(ボッコさん)」

 やがてボッコさんらは、市民がイベントやミーティング、学びや遊びの活動を行うためのコミュニティ・ハブ(地域拠点)が必要だと考えました。そして2006年、〈市の公衆浴場を改修して「地区の家」にする〉というアイデアがボーダフォン財団が募集した地域支援コンペティションで見事採択。ボーダフォン財団のバックアップと市の30年間無償貸与の公約のもと、2010年、「地区の家 サンサルバリオ」が公民学連携で完成しました。

 その後、「地区の家」がコミュニティ・ハブの核となり、サンサルバリオ地区はカフェテリアなどが魅力的なお店が立ち並ぶように進化。老若男女が集まる安全な町として再生を遂げています。

 続いてボッコさんは、トリノ市北部の、ここも移民や低所得層が多く住む地域で、今度は行政の援助なしで立ち上げた民設民営のコミュニティ・ハブ「ヴィア・バルティア」の事例も紹介。そして、2つの実践から得られた教訓として、コミュニティ・ハブの設立や広く地域主体のまちづくりには、プロフェッショナルな知識と技術を持って町づくりのノウハウを市民に伝えていく作業が欠かせないと伝えながら、コミュニティ・ハブに必要な3つの法則を語りました。
 「第一に、何よりも人が大事。外から来た人を受け入れる人間関係を促進しなければいけません。第二に、サスティナビリティ。市民一つひとつの行為がどのような影響をもたらすかを教育していく。そして3つ目は人に寄り添うこと。テリトリーの中でどのように人に寄り添い、彼らの信頼を勝ち得るかが大切です(ボッコさん)」

 その他、「ヴィア・バルディア」の事例では、社会的に困っている人たちを支援する話題にも言及。移民などを雇い、経済的にフォローするというコミュニティ・ハブの役割にも迫りました。

 再生まちづくりにおいては、小さなことから始めて実現していくこと、ゆっくり成熟するのを待つことが大切だと、ボッコさん。コミュニティ・ハブは、リユース、リサイクルといった着眼点のもと、問題点は参加型で解決していき、多様な人たちが共生していくために、差別することなく、また堅苦しくなく、そして雑多に見えても創造的な場所にしていくことだと語り、参加者のみなさんは熱心に聞き入っていました。

★もっと、ポイント
●参加者の意見も飛び交ったワークショップ

 ボッコさんのトークの後は、通訳を行ったローマ在住の多木陽介さんを交えて小松尚さんをモデレーターに「自分のまちにどんなコミュニティ・ハブがあってほしいか」をテーマにワークショップが行われました。

 今回モデレーターを務めた、名古屋大学大学院環境学研究科准教授の小松尚さん。

 ボッコさんの通訳を務めた演出家であり、アーティスト、批評家の多木陽介さん。

 運営の体制や人材の問題、利用者のモラルなど、コミュニティ・ハブをつくるにあたっての地域の取り組むべき課題を参加者とともにディスカッション。地元でコミュニティ・ハブの開設に携わったことのある建築家や一般市民の方々から質問や熱い意見が飛び交い、変わり続ける都市の公共の場所のあり方を考える良い機会となりました。

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